ウィルソン麻菜 – 私が “エシカルウェディング” を選んだ理由 [連載 #01]
「エシカルウェディング」と一言でいっても、どんな場所で・どんな内容でウェディングをするのかは本当にさまざま。エシカルウェディングって、どうやって作っていくんだろう?今回はEWAメンバー・ウィルソンが、自分で作ったエシカルウェディングを振り返ります。連載、第一回目です。
雨上がりにハレの日が始まった
「あれ!雨、止んだみたいだよ」
てるてる坊主を作るときは、いつも大きな口で満面の笑顔を描くようにしている。その効果があったのか、朝からぐずぐずと降り続いていた小雨が、招待客が集まる頃に止み始めた。よかった……。雨が降ってもいいように、とテントを張っていたけれど、やっぱり“ハレの日”は晴れているほうがいい。
私たちが結婚式の会場に選んだのは、二子玉川にある一軒家フォトスタジオ「スタジオレモン」(※現在は改装されて、少し内容が変わっています)。広い庭がある一軒家は、私たちが一目で気に入った場所だ。準備を済ませ、奥にある控え室から会場を覗くと、招待客はみんなウェルカムドリンクを片手にお喋りしている。
バングラデシュからやってきた、柔らかなウェディングドレスの裾を持つ。さあ、私たちのエシカルウェディングの始まりだ。
人生の「特別なとき」、今でしょ!
私は大学時代に国際協力を専攻し、世界には私の知らなかった様々な問題があること、中でも「児童労働」を知って衝撃を受けた。
働かなくてはならず学校にも行けない、私よりも幼い子どもたちがいること。その仕事の多くはカカオやコットンなどの栽培にも及び、それが巡り巡って、チョコレートや衣服となって日本の私たちにも届いていること。
そこで初めて「そうか、自分の身の回りのものは、誰かの手によって作られているんだ」と実感した。つまり、目には見えなくても「私の生活」は「作る誰かの生活」にも大きな影響を及ぼしている。
「エシカル」という言葉を知ったのは、社会人になってから。日本語で「倫理的」という意味のとおり、作り手や環境に配慮したブランドや商品のことをそう呼ぶ。 まさに私が感じた「作る誰か」を意識した買い物ができる。
当時は珍しかった「エシカル」という言葉も徐々に市民権を得るようになり、今やエシカルブランドの選択肢も増え、大手ブランドですら「サスティナブル」や「エシカル」を意識した商品作りに取り組むようになってきた。
女性のエンパワーメントにつながる商品や、リサイクル・アップサイクルなど地球環境に配慮したものなど、その切り口はさまざま。日本で生活しながら「物」を通して、世界の人々や国際協力の世界とつながれることが嬉しくて、私はどんどんエシカルにのめり込んでいった。
しかし、当時24歳の私を悩ませたのは価格だった。これまでファストファッションで買ってきた洋服やアクセサリーはエシカルブランドの半分以下の値段だったし、それでもたくさん買える余裕はなかった。
エシカルな商品を買って作り手にフェアな金額を払いたい……と思いながらも、なかなか手が出せないでいたのも事実。「いつか特別なときに買うんだ!」と言い続けてきたが、ようやく、その時がやってきた。結婚式だ。
一生に一度(そうじゃない人もいるけれど)と言われる結婚式は、これ以上ない「特別なとき」。幸せな瞬間だからこそ、それを彩る「物」の作り手たちも幸せにできるような買い物がしたい。
でも、どうやって……?と、検索しまくる日々のなかで、「Walk in Beauty」と出会った。
出会ったのは、バングラデシュの手仕事
「Walk in Beauty」は、加唐花子さんが立ち上げたエシカルウェディング専門のプランニングプロジェクト。「エシカルを取り入れた結婚式がしたい」という新郎新婦の希望に沿って、アイテムや演出の提案、進行の仕方など力になってくれる。
「まさに私が求めていたもの!!」と、メールを送るとすぐに返信があり、ウェディングドレスを試着させてもらえることに。訪れた部屋にはドレスだけでなく、アクセサリーや小物類が並んでいて、それぞれの商品に背景があると思うと「全部ください!」と言ってしまいたくなる。
花子さんは「大切な日だからこそ、エシカルを取り入れたいんです」という私の目をしっかりと見て、うんうんと話を聞いてくれた。これまで、フェアトレードやエシカルに向き合ってきた花子さんだからこそ、ひとつひとつの商品やその活かし方にも思い入れが強い。
その日試着したドレスも、すべて個性があって優しいものばかり。背中に大きなリボンがついた華やかなドレス、 オーガニックコットンのシンプルなドレス 、そして胸元から裾への手刺繍が美しいドレス。花子さんが「これはバングラデシュの手刺繍で、模様も一つ一つオリジナルでね……」と背景を説明してくれたとき、遠い国の誰かが、ひとつひとつ手で縫っている情景が浮かぶ気がした。
「このドレスを作った人に『結婚式で着ます』と伝えられたら、きっと喜ぶね」
試着を終えたとき、花子さんがそう言った。
このドレスは、遠い国の「あの人」が作ったもの。どんな人が作ったんだろう、どんな生活をして、どんな人生を送ってきたんだろう。生まれた場所を知るだけで、腕の中のドレスがなんだかとても愛おしかった。
自分たちに合った結婚式を、自分たちでつくる
夫は、エシカルとは無縁の人だ。だから、結婚式の“すべてをエシカルにする!”という気持ちは最初からなかった。結婚式は2人でするものであって、2人が納得できる予算と形におさまるのが大事。夫婦も「サスティナブル(持続可能)」でなければいけない。
だから、無事に自分のドレスとアクセサリーをエシカルなものにでき、とても満足していた。花子さんも「まなちゃんのできる範囲で取り入れればいいと思うよ」と言ってくれていたし、少しでもエシカルを取り入れられて、大満足の買い物だったのだ。少しでも取り入れられてよかった、もう十分、と思っていた。
しかし……。Walk in Beautyを訪れたとき以来、胸のときめきが収まらなかった。「エシカルウェディング」を覗いてしまった私は、その素敵な可能性に胸がドキドキして、鼻息が荒くなってくるようだった。いや、もう荒かった。花子さんのやっていることは、なんて素敵な仕事なんだろう。私も、同じようにエシカルを取り入れたい人たちの結婚式を手伝いたい。
鼻息が荒いままに、私は花子さんに電話をしていた。忘れもしない、家の近くの川のほとり。心臓はバクバクしていて、携帯電話を握りしめる手は汗ばんでいた。
「花子さん、急にこんなこと言ってすみません。私もエシカルウェディングを作ってみたいです。花子さんのところで働かせてもらえませんか?」
『千と千尋の神隠し』か――。今ならそんなツッコミもできるが、当時はとにかく思いの丈を伝えておかねばと必死だった。唐突すぎて、花子さんを本当に驚かせてしまったと思う。一瞬の沈黙に、自分の心臓の音が聞こえた。
花子さんは、すごく丁寧に「そう言ってくれて嬉しい」ということと、あいにく人は募集していないことを伝えてくれた。残念だけど、当たって砕けたので悔いはない。お礼を言って電話を切って、この話は終わったはずだった。
しかし数日後、今度は花子さんから電話があった。
「ねえ、まなちゃんの結婚式を一緒に作らない?」
また、自分の心臓の音が聞こえた。エシカルウェディングを、自分で手作りする。どこまでできるかわからないけど、やってみたい。その電話口で「やりたいです!」と伝えた。
こうして、私のエシカルウェディングづくりが幕を開けたのだった。
>>次回に続きます
この記事を書いた人
ウィルソン麻菜 – Mana Wilson –
エシカルライター / ものづくりライター / インタビューブックサービス「このひより」共同代表 製造業や野菜販売の仕事を経て「もっと使う人・食べる人に、作る人のことを知ってほしい」という思いから、主に作り手や物の向こうにいる人に取材・発信している。刺繍と着物、食べること、そしてインドが好き。